映画レビュー・解説

『ダム・マネー ウォール街を狙え!』感想/ネタバレあり解説 【SNS時代の株話】

2024年2月11日

本記事では『ダム・マネー ウォール街を狙え!』について紹介します。

本作は2021年に実際に起きた大事件の映画化。

面白かったです!

金融を難しく描きすぎず、金融知識がなくとも楽しめるコメディタッチになっているのも良ポイント。

私が金融関係に従事していることもあり、当時の株式市場の動きを見ていた身として、身近なテーマということもあってより楽しめました。

とりあえず金融関係者は観るべき!

前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。

サノ評価

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐︎・・・4.0/5.0

作品情報

上映時間105分
原題Dumb Money
ジャンルドラマ、コメディ
監督クレイグ・ギレスピー(代表作:クルエラ、アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル)

あらすじ

コロナ禍まっただ中の2020年。米マサチューセッツ州の平凡な会社員キース・ギル(ポール・ダノ)は、全財産の5万ドルをゲームストップ株につぎ込んでいた。アメリカ各地の実店舗でゲームソフトを販売するゲームストップ社は業績が低迷し、倒産間近のボロ株と見なされていたが、キースは赤いハチマキを巻き、ネコのTシャツ姿の“ローリング・キティ”という別名義で動画を配信し、この株が著しく過小評価されているとネット掲示板の住民に訴える。すると、キースの主張に共感した大勢の個人投資家がゲームストップ株を買い始め、2021年初頭に株価はまさかの大暴騰。同社を空売りしてひと儲けをもくろんでいた金融業界の大富豪たちは巨額の損失を被った。やがてSNSに集った無力な一般市民が、この世の富を独占するウォール街のエリートに反旗を翻したこのニュースは、連日メディアをにぎわせ、全米を揺るがす社会現象に発展。しかし一躍、時の人になったキースの行く手には、想像を絶する事態が待ち受けていた……!

『ダム・マネー ウォール街を狙え!』公式サイトから引用

予告

感想(ネタバレなし)

★感想(以降、ネタバレあり)

スポットライトの当て方が観やすさに繋がる

株式を取り扱う作品は難しくしようと思えばどこまでも難しくできるので、専門知識がない人をどこまで惹き込めるようになっているかがポイントだと思っていますが、本作は完璧でしたね。

金融知識については、↓に用語解説として取り上げてはいますが、『空売り(株価が下がったら儲かる)』、『ヘッジファンドは金持ちで悪者』ということさえ分かれば問題ないです。

ヘッジファンド自体は悪者ではないのですが、本作では個人vsヘッジファンドの対立を分かりやすくするため、ただの悪者として描かれています。あくまで映画として雑音の少なさを意識したスポットの当て方でしたね。

コロナ禍の奇跡とロビンフットの台頭

劇中でマスクの着用を促したり、医療従事者へ敬意を込めた会話があるなどから分かる通り、この物語はコロナ禍のお話です。

外出自粛など閉鎖的な日常で、キティの熱量に賭けるという行為が一種の宗教的な熱気を帯びていたのかもしれません。

そしてなんと言っても登場人物のほとんどが、スマホで取引をしています。気軽に、いつでも、どこでも取引しています。

これには劇中でも登場したロビンフットが一役買っています。

2015年に手数料無料と手軽さを武器にした「ロビンフット」というアプリが登場します。

株式を売ったり、買ったりするためには手数料を証券会社支払う必要があるのですが、ロビンフットは手数料無料を打ち出し、若者から多くの支持を集めました。

コロナのはじめ辺りである2020年には300万人ユーザーを抱える大サービスになり、ロビンフット族と呼ばれる様な投資の知識が乏しく、ギャンブルのように株式市場に参加する若者たちは損失と隣り合わせの危険性を顧みない姿勢から危険視されていました。

ゲームストップ株の売買が停止されたのも、多少なりともそういった背景があったわけで、すべてがヘッジファンドに迎合しただけとは言えないわけです。

と、この辺りは当然私も真実を知る由もないのですが、ヘッジファンドの暗躍があったと断定する様な描き方は良く悪くもエンターテイメントでしたね。

強いて挙げるなら

キティはなぜゲームストップ社に未来を感じたのか、という点の深掘りが分かりやすくあっても良かったなと。

物語は最初からゲームストップ社の株価が上昇していくことを信じているところからスタートしています。

この理由について、劇中では「空売り比率100%」という事態がおかしいとキティが熱弁していますが、これだけと言えばこれだけなんですよね。

空売り比率100%というのは、平たく言うと全員が株価が下がる方に賭けているという状態です。

確かに一方的な下落に違和感を抱かなくはないんでしょうが、全財産を賭すに足りるかというと、やはり分が悪い様にしか見えません。

キティが自身でリスクを考えられていたのか、リスクを脇に置き半ばヤケクソだったのかは知りたいところでしたね。

クジラのスイミーvs小魚のスイミー

本作のように個人が団結してヘッジファンドに立ち向かうというのは、本来の投資からすると分が悪い投資です。基本はやめた方がいいです。

詳しくは株式取引について後述していますので、そちらを参照していただきたいですが、株式取引は大原則として資金の動きによって決まる人気投票です。

巨大な資金が右に行っているときに、「私は左に行くわ!」というのは逆風に向かっていく様なものです。

ヘッジファンドはしばしばクジラ🐳などと表現されることもありますが、お金持ちが束になった一匹のクジラになったものがヘッジファンドなんですね。

しかも集合する一匹一匹がすでにクジラなので、それが集合して一匹になるととてつもない大きさになりますよね?

対して個人投資家は一人一人は小魚。メダカだと思ってください。

メダカがクジラと戦いになるわけないですよね?

小学校の国語の時間に『スイミー』という小魚たちが寄せ集まって一匹の巨大魚を撃退するお話がありましたが、そのイメージを持つと分かりやすいです。

この物語は大前提として、クジラにメダカが戦うという無謀な物語です。だからこそ逆転した時のカタルシスを感じるわけですけどね!

Q&A

Q.株式取引をしたことがないけど、内容はわかる? → A.作中で最低限説明されるため問題ありません。株式取引に精通していなくとも、個人投資家vsヘッジファンドという資金量の違う両者の不条理な対決に胸熱になること間違いなし!

用語解説

本作は株式取引を題材にしているため、金融用語がいくつか出てきます。

作品自体が丁寧な作りのため用語を完全に分かっていなくても楽しめますが、やはり事前知識として知ってるのと知らないのとでは面白さも変わってくるというもの。

噛み砕いて必要最低限のキーワードをご紹介します。

  • ヘッジファンド(機関投資家)→富裕層から資金を集め代わりに資産運用をするモノ。金融のプロの総称でもあり、富裕層から集め運用している商品を指す場合もあります。
  • 個人投資家→私たちのような一般の人。個人で投資をしている人の総称です。
  • 株価→企業の価値。基本的には安い株価で買って、高い株価になった際に売ることで投資家は利益を得ます。
  • ショート(空売り)→株価が下がれば利益が出る取引。逆に株価が上がることで損失が発生します。
  • 株価→企業の価値。取引所に上場している企業はすべて株価として企業価値が見える化されます。いまの企業価値=株価がもっと上がりそうなのか、下がりそうなのかを考え、投資家たちは買ったり、ショート(空売り)するわけです。

株価は多くの場合、企業業績(売上)や今後の成長見込みによって変動しますが、直接的な価格の変動要因は売買です。

本作のように、株価が今後上がると思った人が殺到するとどんどん株価は上がります。

反対に株価が今後上がらない=企業の売上が落ちると思う人が多いと株価は下がります。

株価の作られ方

株価は基本的に美人投票で形成されます。

企業の株式とは総数が決まっていて、その株を買う時には売りたい人から買い取ることになります。

なので、100円から売りたいという人と、100円より安ければ買いたいという人がいれば取引が成立します。

もう少し説明すると、

100円で売りたい人が一人、100円より安ければ買いたいという人が二人いると、一人だけ売買でき、一人は買うことができません。

100円より安い値段で買えなかった人は、①諦めるか、②そのまま条件を変えずに条件に合致する売る人を待つか、③買いたい値段=条件を引き上げて売る人を待つわけです。

③の場合、安く売りたい人がいなければどんどん株価は上がっていきます。

大原則として、株式は売る人は高く売りたい、買う人は安く買いたいう需給関係があります。

本作では、買いたい人(資金)が大量に集まり、それが売りたい人(資金)を超過していったことで、どんどん株価が異次元の上がり方をしたわけです。

個人の資金がヘッジファンドという巨大な資金群を凌駕することなど、まずあり得ないことですが、それが実際に起きたいうドラマ性が本作の妙味ですね。

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